小千谷の社会保険労務士

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違うの?「平均賃金」と「通常の1時間当たりの賃金額」

労働基準法には「平均賃金」というお金の単位(1日分)があります。

平均賃金は、労働者の生活を保障するという場合に算定することが多いので、通常の生活賃金をありのままに算定することを基本とし、原則として事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額です。(労働基準法第12条)

この平均賃金を算定の基礎とするものとしては

  1. 解雇予告手当(例:30日分)
  2. 休業手当(例:5日分)
  3. 減給制裁の制限(例:1回の制裁が平均賃金の半額を超えてはなりません)
  4. 年次有給休暇中の賃金(定めている場合)
  5. 災害補償(例:90日分)
  6. 転換手当(例:60日分)

などです。
 「総日数(分母)と賃金総額(分子)から控除されるもの」「賃金総額(分子)から控除されるもの」が規定されていますが、いずれにせよあまり日常的に算定するものではありません。

 

労働基準法ではもう一つお金の単位があります。「通常の1時間当たりの賃金額(1時間分)」、つまり割増賃金の計算の基礎となる単価です。
 「通常の1時間当たりの賃金額」は、

で計算されます。(時給だけの人は、その時給がそのまま通常の1時間当たりの賃金額です)

いわば、月給制の人の時給換算となるこの計算では、分子には何が含まれるのか(何が除かれるのか)?、分母は月ごとに違うけど?、という疑問が出てきます。
 労働基準法の基本姿勢としては、分子の額には原則全部入れなさい、ということになっています。つまり、会社ごとに~手当、~手当などいろいろあると思いますが、全部入れるのが原則です。ただし、これとこれと…は除いてもいいですよ、というのが労働基準法(と施行規則)では決められています。
 ですから、分子の額を出すのに労働基準法で除いてもいいですよというものを会社の判断で含めるのはOKです。労働者に有利になりますから(時間単価が上がるから…)。労働基準法で除いてもいいですよと決められているもの以外のものを除くのは労働基準法違反となります。例えば、精皆勤手当を除くのは、労働基準法違反です。
 月額給与額から除外していい手当として下記の7種類ありますが、その名称で判断されるものではなく、実態で判断されることに注意が必要です(名称はあまり関係がないとも言えます)。たとえば、「家族手当」として支給されている場合であっても、除外していい場合と含めなければならない場合があるということです。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われる賃金
  7. 1か月を超える期間ごとに支払われる手当

次に分母の月平均所定労働時間ですが、「月平均」ですので一年間(会社が任意に決めた1年間)の労働日数をだしてそこに1日の所定労働時間をかけて12で割れば分母の月平均所定労働時間が出てくるわけです。
 月平均所定労働時間を毎年見直す(計算する)のが面倒という会社の場合、固定することも可能です。常に実際の時間を超えることがない時間で固定すれば労働基準法に違反することはありません(単価が上がって、労働者に有利になるから…)。

単価が分かったらそこに割増率(現在、中小規模企業の場合は4種類)と時間外労働時間をかけて時間外手当が計算されます。

 

昨今、話題となっているサービス残業・不払い残業などは、こうした単価を出すうえでの計算上の問題ではなく、ほとんどが単価にかける「時間外労働時間」の問題です。30時間残業しているのに20時間分しかつけない、という感じで…。
 ただ、単価である「通常の1時間当たりの賃金額」を長期間、間違ったまま計算・算定しているとそれはそれで大きなリスクです(沈黙のリスク、簿外債務などと呼ばれるものです)。

一例:時給1000円のアルバイトの人(年間労働日240日、1日8時間労働)で月額10,000円のリーダー手当(みたいなもの)をもらっている場合、法定労働時間を超えて働いたとき(たとえば1日9時間働いた場合)の時間外労働単価は1,250円ではありません。
1,329円です。(端数処理の仕方で数円違ってきます)